移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 ユリスが静かに名前を呟くと、リリィは目の前のロベリオという男を見て思い出した。

(確かこの人、昨日の歓迎会でなんかすごい話しかけてきた人だ。ずっと隣に座って飲み物をすごいたくさん勧めてきて……)

「ごめんね、リリィちゃん。昨日は飲ませすぎちゃったろ。いつの間にか消えてたけど、大丈夫だった?」

 ロベリオの言葉に、リリィが大丈夫だと言いかけると、ユリスが口を開いた。

「大丈夫です、この子は俺の部屋に連れて行ったので」
「は?」

 ユリスの言葉にまた食堂内がざわつく。何より、ロベリオが一番驚いた顔をして絶句している。

「リリィちゃん、それって本当なの?」

 ロベリオがリリィに向かってそう聞くと、リリィはおどおどしつつも小さく頷いた。それを見たロベリオの表情が一瞬険しくなるが、すぐに先ほどまでのキラキラした笑顔に戻っていた。

「……そうか、女嫌いのこいつの部屋なら問題ないかな。本当にごめんね。これから同じ研究課の一員としてよろしく」

 それじゃ、またねとリリィに笑顔を向けてから、ロベリオはすれ違いざまにユリスの耳元に顔を近づけた。何かを言っているようだが、リリィにはその言葉は聞こえない。

「先に獲物に手を出したからっていい気になるなよ」

 ポン、とユリスの肩を叩いて、ロベリオはいなくなった。

「あ、あのユリスさん……」

 ロベリオが立ち去った後リリィがユリスの顔を見ると、いつも真顔のその顔にはほんの少しだけ怒りが滲み出ているようでリリィは怯む。

(ユリスさん、怒ってる?ロベリオさん、去り際にユリスさんに何か言ったみたいだけど何を言ったんだろう?)

 リリィは湧き上がる胸騒ぎを落ち着かせるように胸元をぎゅっと掴んだ。



< 6 / 103 >

この作品をシェア

pagetop