移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「お前はどこからきたの?どうしてこんな中途半端な時期に使用人が補充されたのかしら。しかも私の身の回りの世話をするなんて、お父様はただの使用人にはさせないはずなのだけれど」

 レインと部屋に二人きりになったベラが訝しげに質問すると、レインはにっこりと微笑んで答えた。

「私はとあるお屋敷で長いこと使用人をしておりました。ですが主が亡くなり行く宛がなくなってしまい途方に暮れておりましたところ、旦那様にここへ来ることを提案されました。若く美しい娘がいるのでその世話をしてほしいと」

(お父様が直々に選んだ人間であれば間違いはないはずね……)

 ふむ、とベラがレインを見つめるとレインは微笑みながらベラに近づく。

「な、何かしら」
「ベラ様は本当に可憐でお美しいですね。これならあの男も落ちてくれるでしょう」
「?お前一体何を言って……」

 そう言ったベラはいつの間にかレインの若草色の瞳から目を逸らせないでいた。頭がぼんやりとして体が言うことを効かず、目の焦点も合わなくなっていた。

 身動きの取れないベラの頬にレインはそっと手を添え、静かに口付ける。唇が触れた瞬間、ベラはビクッと体を震わせたが唇が離れると物欲しそうな蕩けるような顔をしてレインを見つめていた。

「君には僕の駒になってもらうよ」
「は……い、ご主人、様」

 レインの首に手を回し抱きつくベラ。レインはそんなベラの様子にククク、と静かに笑みを漏らす。

「女性は魅了が効きやすくて簡単だなぁ。さて駒が手に入ったことだし、そろそろ始めようかな」
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