移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「あの男がラムダロス監獄から脱走した?」

 ライムがユリスの元に縁談を持ってきた日から一週間後。研究課第一部門の会議室でユリスが思わず声を荒げた。

 レインと名乗る男は赤い雫の事件以降捕まり、ラムダロス監獄に収容されていた。ラムダロス監獄とは、魔法省の管轄する国内最高峰の監獄であり、ネズミ一匹たりとも出入りすることは許されないほど厳重な警備を誇る監獄だ。レインはリリィの部屋を荒らし研究課のデータベースに侵入しリリィを監禁した罪に問われ、さらにハイルの研究に深く関係していた幹部の一人でもあったため危険人物と見なされラムダロス監獄に収容されたのだった。

「あんな監獄から脱走するだなんてそもそもできるはずかない……逃げたというのは本当なんですか?」
「ラムダロス監獄からの知らせでは、レインが監獄から脱走したのは二週間前だそうだ」
「二週間前!?なぜそんな前のことを今更連絡してきたんですか!遅すぎる!」

 ダンッ!とユリスは怒りに任せて机に両手を叩きつけた。リリィを危ない目に合わせた張本人が監獄から脱走したのだ、怒りと不安は如何程のものであろうか。普段滅多に感情を表に出さないユリスの荒れた状態に、その場が静まり返る。

「どうやら精神魔法によって看守たちは最初脱獄されたことすら気づかなかったらしい。数日経って意識が戻り、慌てて状況把握と対応に追われたそうだ」
「でもあの監獄、囚人は魔法が使用できないはずですよね。なぜレインは使えたのでしょうか」
「内部に内通者がいたか、あるいは外部でも手引き出来るものがいたか……」

 会議内で繰り広げられる会話を聞きながら、リリィは血の気がどんどん引いていくのを自覚していた。顔は青ざめ、手足は氷の様に冷たくなっていく。そしていつの間にかカタカタと小さく震え始めていた。
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