移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
(レイン君が、逃げ出した……?あのレイン君が……)

 レインに監禁された時の恐怖は二度と思い出したくないのに今でもはっきりと思い出される。自分に執拗に執着し、説得しようにも会話にもならない相手。そんな相手が国内一の監獄から脱走しただなんて。またいつ接触してくるかわからない恐怖がリリィを侵食していく。

 ふと、リリィの片手にユリスの手が重なった。静かに横を見ると、ユリスが真剣な顔でリリィを見つめていた。

「大丈夫、俺がいるから」
「そうそう、それに私たちだっているし!リリィちゃんは心配しないで」

 ユリスに続いてベリアも両手をグーにして力強く言う。そしてエイルやエデンも同じように力強く頷いた。

(皆さん、私なんかを励まそうとしてくれてる……)

 皆の気持ちが暖かい。不安だった心がほぐれ、フワッと暖かくなっていくのを感じながらリリィはいつの間にか涙をポロポロとこぼしていた。

「あっ、えっ、あの、すみません」

 慌てて両手で目元を擦り涙を拭く。そしてリリィは精一杯の笑顔を作り言った。

「ありがとうございます」

 そんなリリィの笑顔を見て、ユリスは胸が苦しくなっていく。

(リリィのことは俺が絶対に守る、絶対に)

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