移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 応接室に通されたリリィとユリスだが、そこにある椅子は二対しかない。

「さぁ、ユリスお兄さまどうぞお座りになって。あら、ごめんなさいユリスお兄さま以外の客人の椅子は用意してないの」
「ベラ、いい加減にしないか。彼女に嫌がらせをしたところで俺の気持ちは余計に君から離れていくだけだ」

 うんざりした顔でユリスが言うと、ベラはショックを受けた顔で悲しそうに両手を胸の前で握る。

「そんな、ひどいのはユリスお兄さまの方よ。小さい頃はどんなときだってそばにいて何があっても助けてくれたじゃない。大きくなったら結婚しましょうって誓い合っていたのに」
「小さい頃は君の本性に気づかなかったからね。それに結婚しようと言っていたのは兄貴の方だろ。しかも君から一方的に」
「そんな……」

 ユリスの言葉にベラは両手で顔を覆いわっと泣く素振りを見せる。それを見てリリィは呆気にとられ、ユリスはさらにうんざりした顔でため息をついた。

「君のその可愛らしい顔で可哀想な振る舞いをすれば誰もが助けてくれるっていう見え透いた振る舞いが俺は昔から嫌いだ。だが君ほどの女性なら寄ってくる男性だってたくさんいるだろうし選びたい放題だろ。今の俺には大切な人がいる。君との縁談は絶対にありえないから諦めてくれ」
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