移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました

二十六話

「やっと二人きりになれましたわね、ユリスお兄さま」

 ベラが嬉しそうににっこりと微笑む。
 ユリスと二人きりで話をさせてもらえればもう二度とユリスには近寄らない、そう言われユリスとリリィはベラの提案を受け入れた。ベラの考えそうなことは大体予想がつく。それを踏まえた上でユリスは大丈夫だからとリリィに言い、リリィもユリスを信じて二人きりにさせたのだった。

「それで、君は一体何がしたいんだ。どうせ何か企んでるんだろう」
「あら、ひどいわお兄さまったら……って、そんな愁傷なことを言ってもお兄さまには通用しないんでしたわよね」

 テーブルの上に置かれた掌に収まるほどの小瓶をベラは持って怪しげに微笑んだ。その小瓶はガラスに金色の細かい装飾が施され、中には赤紫色の美しい液体が入っている。

「お兄さまにはこれを飲んでいただきたいの」
「それは?」
「これは、媚薬です。最上級の媚薬なので一滴飲んだだけでも十分効果はあるそうですが、特級魔法士で媚薬耐性のあるお兄さまには全部飲み干していただきます」

 ベラの言葉にユリスは信じられないものを見るような目でベラを見つめるが、ベラは気にせず嬉しそうに話を続ける。

「これを飲んでもユリスお兄さまが私に指一本手を触れなければユリスお兄さまの勝ちです。私は今後二度とユリスお兄さまに近づきません。お兄さまは特級魔法士ですもの、少し我慢すればいいだけの話、簡単でしょ?でも」

 そう言ってベラはテーブルに置かれたもう一つの小瓶を反対側の手に取る。その小瓶は先ほどの小瓶と同じ様形のガラス製で銀色の細かい装飾が施され、中には青紫色の美しい液体が入っていた。
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