移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 ユリスとベラが二人きりになる、それはリリィにとっては不安でしかなかった。それでも、ユリスの大丈夫だという言葉を信じてリリィは二人を残して部屋を出て、別の応接室で待機していた。

(ユリスさん、大丈夫かな。でもこれでもう二度とベラさんがユリスさんに近寄ることがないんだったら……)

 この話を断ればベラはいつまでもどこまでもユリスとリリィに付き纏うだろう。もしもユリスとリリィが結婚することになったとしてもそれを邪魔してくるかもしれない。ユリスはどんなことがあってもリリィのそばにいて守ると言ってくれたが、あのベラであればどんな嫌がらせをしてどんな邪魔をしてくるかわからない。

 そんなことを考えながら、そもそも自分とユリスが結婚するなんてことはあるんだろうかとリリィはふと思う。今まで知らなかったが今回の騒動でユリスは公爵家の次男だとわかった。
 反対にリリィは施設出身で家族はいない。時代と共に身分で差別するようなことは少なくなってはいるが、それでも完全に無くなったわけではないのだ。
 格式高い家柄であれば、本人がどうであれ家が身分差を許さないだろう。もしもユリスの家がそうであった場合、結婚するしないにかかわらず自分はユリスとは不釣り合いと見做みなされてしまうのではないか。
 何より、ユリスのような才能もあり家柄にも恵まれた人間が自分のような人間と一緒にいていいのだろうか?
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