移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 震えながらもリリィはレインへ非難の言葉を止めることができない。怖いのに、どうしてもレインには一言言わないと気がすまないのだ。そんなリリィの言葉にレインは途端にしゅん、と悲しそうな表情をする。

「ごめん、あれは仕方のないことだったんだ。僕は魔法研究機関の職員だったからね、上層部の命令には絶対従わなければいけなかったんだよ」

 そう言ってレインはリリィに少しずつ近寄るがリリィは椅子を持ってレインに投げつけた。

「来ないで!」
「そんな、僕のこと嫌いになっちゃったの?あぁ、そういえばなんで僕がここにいるか知りたがってたね。教えてあげるよ、後で詳しく。それよりも今はあの男のことが気がかりでしょう?」

 レインに言われリリィは両目を見開く。そのリリィを見てレインは口の端に弧を描いた。

「今頃あの二人は濃密な時間を過ごしているかもしれない。男女が密室で二人きりになってすることなんて決まってるでしょ?ベラはあの男を手に入れたくて仕方ないみたいだし、なりふり構わず誘惑するに決まってる。僕も手を貸したしね。あの男がその誘惑に打ち勝てるかな」
「まさか、今回のことあなたが仕組んだの!?」
「今更気づくなんて遅すぎるよ、リリィちゃん。それにリリィちゃんだって思っているんでしょ?自分はあの男にはふさわしくないって」

 レインの言葉にリリィはびくっと肩を震わせ、それを見てレインは嬉しそうに笑いリリィの目の前に来る。恐怖で身動きの取れないリリィの髪の毛を一房そっと手に取り口付けた。

「才能溢れる公爵家の次男と施設育ちの平凡な女、世間から見たら釣り合わないって思われるよね。それより、同じ施設で育った僕の方がリリィちゃんにはふさわしいと思うよ。それにほら、あれを見て」

 そう言ってレインが指差す壁には、一つの映像が映し出されていた。

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