移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました

二十八話 二度目の誘拐

「あれを見てよ」

 レインが指差す壁にはいつの間にか映像が映し出されていた。どうやらユリスとベラのいる部屋のようで、遠目で二人の表情は見えない。だがなぜかそのタイミングを図ったかのようにユリスがベラを床に押し倒した状態が映し出されている。

「……ユリスさん!」
「ほらね、わかっただろう。また男に裏切られたんだね、かわいそうなリリィちゃん」

 レインの言葉にリリィの脳内には元婚約者であるリゲルとの過去の記憶が嫌でも蘇ってくる。リリィは壁の映像を見ながら両目を見開き首を横に振った。

「違う……、違う違う違う!ユリスさんはそんな人じゃない!あんな映像、どうせあなたがでっちあげたんでしょう!」

 両目からはらはらと涙を流し、リリィは叫んだ。その様子にレインは一瞬悲しく寂しそうな顔をしたが、すぐにそれは消えた。天井を眺め、フーッと大きく息を吐きまたリリィを見つめる。

「そっか。リリィちゃんにはあの男を諦めて自分の意思で僕と一緒に来てほしかったけど、ダメなんだね。わかったよ」

 両手で顔を覆い泣きじゃくるリリィの前にレインは手を翳し、言った。

「一緒に行こう」

 その一言が言い終わる前に、二人の姿は赤黒い靄に包まれて消えた。
< 78 / 103 >

この作品をシェア

pagetop