移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 カタン、とベラの手から小瓶が落ちるのを見てユリスは小瓶を掴みさらに遠くへ投げた。そして自分の胸元に手を置くとユリスの体が薄緑に光りだす。ユリスの呼吸は少しずつ落ち着きを取り戻したが顔色は蒼白のままで、まだ身体中に激痛が走っている。

(上級魔法を使える人間か作った毒薬だけあって回復がなかなか追いつかないな……しかしこんなもの一体誰が何のために)

「ベラ、これは、一体、誰が」

 まだ苦しそうに顔を歪めながら聞くユリスに、ベラはカタカタと震えながら首を横に振る。

「違う、違うの、私はお兄さまに毒なんて……レイン、そうよレイン、あの男はどこ!?」

 ベラは突然ハッとして立ち上がり部屋から出て走り出した。必死に屋敷内を走り、別の応接室にたどり着いてドアを乱暴に開ける。

 ドアを開けた部屋には誰もいない。床には投げ捨てられた椅子が一つ転がっていた。

「どうして誰もいないの、あの女は?レイン、レインどこにいるの!」

 ベラの声が部屋に響き渡る。突然ベラの頭が割れるように痛くなり、ベラは頭を抱えてうめきだす。そしてカッと両目を見開いた。

 突然屋敷にやって来た顔の片側に仮面を被った男、その若草色の瞳から目が離せなくなり、そこからの記憶が飛び飛びで定かではない。ユリスの話をすると小瓶を二つ渡され、何かを言われて……。
 そうか、操られたのだ。いつの間にか自分はあの仮面の男にいいように使われて、挙句ユリスを毒殺してしまう寸前だったのだ。

「う、嘘……ア、ア、イアアアアア!」

 ベラの悲鳴にも似た叫び声が部屋中に響き渡り、その場にベラは崩れ落ちた。
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