移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
『リリィ、どんなことがあっても自分を信じなさい。あなたがあなたを愛し信じていれば自ずと道は開かれていくの。大丈夫、心配いらないわ』

 優しい笑顔でそう言うと、その女性はリリィの頭を優しく撫でる。女性の隣には同じように優しい笑顔を向ける男性がいた。

「おかあ……さん……おとう、さん……」

 ふと目を覚ますと、見知らぬ天井が見える。

(また、昔の夢?)

 リリィはぼうっと天井を見つめていたが、すぐにハッとして飛び起きる。

(ここはどこ?レイン君は?)

 どうやら見知らぬ部屋のベッドに寝かされていたらしい。部屋を見渡すとどこなのか全くわからないがレインの姿はないようだ。
 静かにベッドから降りると、部屋の中は薄暗く魔光石によって灯るランプが一つだけあった。窓のようなものはあるがカーテンがかかっている。カーテンを静かに捲ると窓には鉄格子がかかっており、リリィは息を呑む。

 部屋にはドアが一つある。静かにドアのそばに近寄り、そっと耳を当てて音を探る。ドアの向こうに人の気配はないようだ。意を決してドアをそうっと開ける。

 ドアの向こうには廊下があり、すぐ側に階段が見える。どうやらここは二階のようだ。

(どうしよう、降りてみるべきか、それとも黙ってここにいるべきか)

 廊下に出てまた聞き耳を立ててみるが相変わらず人の気配は感じられない。今なら、もしかしたらレインに出会わずここから脱出できるかも知れない。脱出は不可能だったとしても、今いる状況を自分の目で把握しておきたい気持ちは強くある。

(考えていても始まらない、とにかくこの中を散策して確かめてみないと)

 ぎゅっと胸元を掴みながらリリィは階段へ足を向けた。
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