移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました

二十九話

階段を降りるたびに、足元からギシッ、ギシッと軋きしむ音がする。リリィは細心の注意をはらいながら階段を降りた。

 一階に着き辺りを見渡すが誰もいないようだ。所々に魔光石のランプが灯り二階の部屋よりは明るく感じる。だが薄暗いことに変わりはない。

(あ、れ?ここ、なんとなく見覚えがあるような気が……)

 キョロキョロしながら歩いているとコンっと何かにぶつかり、カタンと何かが倒れた音がする。どうやら机にぶつかったようだ。机の上には倒れた写真立てがあり、恐らくこの写真立てが机にぶつかったはずみで倒れたのだろう。静かに写真立てを立て直そうとして、リリィは目を見張った。

(この写真……!)

 写真立てに入っている写真には、小さな子供たちが建物の前で並んでいる様子が写っていた。笑顔で並んでいる女の子と男の子の周りの子供たちの顔は全て黒く塗りつぶされている。

(これって、小さい時にいた施設の写真だわ、しかも小さい頃の私とレインくん……でもどうして他の子たちの顔が塗りつぶされているの?)

 写真を見てリリィはゾッとする。きっとこれはレインがやったのだ。そして写真を見て昔を思い出し、あることに気がついた。

(今いる場所って、もしかして私たちが育ったあの施設……?)

 どこかで見覚えがあると思ったのだ。薄暗くて最初は良くわからなかったが、さっき降りてきた階段の構造といい一階の様子といい、当時の状態とほとんど変わっていない。

(どうしてここに……)
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