移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 疑問に思いながらもまずは脱出経路の確認だ。リリィは過去の記憶を手繰り寄せ玄関まで辿り着きドアを開けようとするが、ドアには鍵がかかっている。魔法で壊せないかと思い魔法を発動しようとしたが、一向に魔法が発動しない。恐らくレインが施設全体に魔法封じの魔法でもかけているのだろう。
 魔法でダメなら物理攻撃で、と体当たりを試みるがドアはびくともしない。何度も何度も体当たりするが、何の効果もなく最後は跳ね返されてしまった。

「痛っ……!」

 リリィはドンッと床に倒れ込む。予想はしていたがやはり脱出は不可能のようだ。リリィはゆっくりと起き上がり考えを巡らせた。ここが幼い頃に過ごしていた施設だとしたら、かなり田舎の方ではあるが大体の場所はわかる。この建物から出れさえすれば何とかなるかもしれない。そう思って他の窓やドアを探そうと思ったその時。

「あれ、リリィちゃん起きてたんだ、おはよう」

 床から魔法陣が浮かび上がりリリィの目の前にレインが出現した。レインは片手に大きなバスケットを抱えていて、そこには飲み物の瓶やパン、果物や肉などが大量に入っていた。

「もしかしてここから逃げようと思っていた?無理だよ、ここのドアや窓は全部封鎖してあるから。どんな手を使ってもここからは出られない」
「どうしてこんなことするの?それにここは昔いた施設よね?どうしてここなの?」
「そうだよ、ここは僕とリリィちゃんが一緒に過ごした素敵な大切な場所。だから二人の最期を迎えるならここがいいなって思ったんだ」

 二人の最期?不穏な言葉にリリィはゾッとする。そんなリリィを見てレインはくすくすと楽しそうに笑った。

「大丈夫、今すぐにってわけではないよ。リリィちゃんとはまだ一緒にここで過ごしたいと思っているしね。そうそう、邪魔者は来ないから。来れないって言った方がいいかな。ここの周辺には魔石を取り込んだ強い魔物が数体いるから誰も近寄れないよ」
「どういうこと?どうしてそんな魔物がそんなにいるの?それにここは田舎だけど近くに街もあったじゃない、そんな魔物がたら街の人たちが大変だわ」
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