移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
リリィの言葉にレインはフッと笑みをこぼす。 

「この施設はリリィちゃんが去った後にすぐ閉鎖になったんだ。ここ周辺は一時期魔物による大災害に見舞われたから」

 そんな話は初耳だ。施設を出てからは確かに施設の人間とは連絡を取っていなかったが、施設や施設周辺で何かあれば流石に国中で情報が流れるだろう。リリィの訝しげな顔を見てレインは静かに微笑んだ。

「ハイルさんが情報が漏れないように操作したからね。魔法省も把握していないことだよ。この施設のことも街のことも全て最初から無いものにされたんだ。すごい田舎だからね、突然無くなっても別に誰も不思議に思わない。魔物が現れて大多数の人が犠牲になったけど、何とか逃げ延びれた人間は全員ハイルさんに拾われてハイルさんの魔法研究機関に所属したんだ」

 生き延びハイルに拾われたレインたちはハイルの元で魔石の研究をずっと行っていた。今回リリィたちがハイルを魔石の力ごと消滅させ研究機関を壊滅させたことで、その人間たちは皆捕まった。

「そんなことがあったなんて……。でも捕まっていたのに、どうしてレインくんは監獄から出られたの」
「知りたい?教えてあげてもいいけど、そんなことよりお腹空かない?食べ物たくさん買ってきたんだ、夕食にしようよ。時間はたっぷりあるんだ、説明なんていつでもできる。それよりもリリィちゃんと一緒にご飯を食べたいな」

 本当に嬉しそうにはしゃいで笑うレインをリリィは呆然と眺める。この状況でこの男はどうしてこんなにも嬉しそうなんだろうか。リリィは自分の胸元をぎゅっと掴みながら気持ちを落ち着かせるようにすうっと息を吸い、静かに吐いた。

「レインくん、どうしてこんなことするの。お願いだからもうやめて、私はあなたと一緒にはいられない。あなたがこんなに私に執着する意味もわからないし……」
「執着?違うよ、これは愛だよ」

 そう言ってリリィを見つめるレインの目はあまりにも澄んでいて逆に恐ろしいほどだった。
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