移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました

「リリィちゃんが施設を出ていったとき、僕は本当に悲しかった。どうして僕だけ残らなければいけないんだろう、どうしてリリィちゃんは僕を置いていってしまうんだろうって」
「それは、私があなたより年上で先に施設を出る年齢になったから……」
「そんなのはわかってるよ。わかってるけど納得はできなかった。だって僕はリリィちゃんといつも一緒にいるべき人間なんだから。僕たちは離れ離れになるべきじゃなかったんだよ。だって、そのせいでこの町は魔物に襲われて施設は無くなったし、僕はずっと悲しくて寂しくてしかたなかったんだから」

 そう言ってレインは少しずつ少しずつリリィに近寄ってくる。リリィは思わず後ずさりするが、結局は背中が壁にぶつかってしまう。そんなリリィをレインは物悲しい瞳で見つめ、そっとリリィの頬に手を添えようとする。だが、恐ろしさのあまりリリィは顔を背け、レインはさらに傷ついた顔でリリィを見た。

「離れ離れになっていた間に、リリィちゃんは変わってしまったんだね?あんなに僕のことを守って大切に思ってくれていたのに、今はまるで僕のこと嫌いみたいだ」

 目を伏せて悲しげな声で静かにそういうレインを見て、リリィは思わず違う、と言いそうになる。だが、言えなかった。違う、とは言い切れないのだ。

「嫌い、なわけではないのよ。ただ、怖いの。突然現れて私のことをさらったり、大切な人のことを傷つけようとしたり、今のあなたは私の知っているレイン君じゃない。変わったのは私だけじゃないわ、レイン君だってそうよ」

 リリィがそう言うと、レインは目を見開いてから心底悲しそうな表情になった。

「……僕は何も変わってない。ずっとずっとリリィちゃんがいなくなってから僕の時は止まったままだ。君のことが大好きで大切で、どんな時でも一緒にいたい。片時も離れたくない。僕はもう、リリィちゃんを失いたくないんだ」
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