移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 リリィは地面に横たわりながらせき込み、なんとか呼吸を整えようと必死だ。その横でレインは手首をさすりながら憎悪の目をユリスへ向けた。

「どうして邪魔するの。それによくあの状態で攻撃しようなんて思ったよね。リリィちゃんに当たりでもしたらどうするんだよ」
「俺がそんなヘマするわけないだろ。それに、リリィを殺そうとしていた人間が何言ってるんだよ!」
「僕はいいんだよ!……あぁ、もう、君がいる限り本当にだめだね。リリィちゃん、先にあいつを消さなきゃいけないみたいだ。君はそのあとにゆっくり殺してあげるから、少しだけ待ってて」

 ふわっと優しく微笑むレインの顔を、両目に涙を浮かべせき込みながらながらリリィは見つめる。その時、リリィの体が軽くなり、喉の奥の苦しさもやんわりと取れたように感じた。ハッとしてユリスを見ると、ユリスが片手をリリィへむけ、リリィへ治癒魔法をかけていた。

「ユリス、さん……」

 まだ声が出しにくいが精一杯の力を振り絞って名前を呼ぶと、ユリスは少し微笑んで頷いた。

「大丈夫、すぐに終わらせる。リリィはここで待ってて」

 そう言ってユリスはリリィの周りに守護魔法と拘束魔法をかけた。リリィ自身を拘束するわけではないが、リリィがその場から移動することはできない。

「場所を変えようか」

 冷めた目でユリスを見ながらレインがそう言うと、二人の周りに魔法陣が浮かび上がりリリィの目の前から二人の姿が消えた。
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