移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
 レインは体を折り曲げてうめき声をあげ苦しそうにもだえるが、すぐにそれは収まった。ゆっくりと起き上がったレインから膨大な魔力が浮かび上がる。レインの顔の片方にかぶせられていた仮面はいつの間にか取れ、眼球のありかすらわからないほどぐじゃぐじゃになっている顔面の片側があらわになっていた。

「その顔……」
「あの時、君に殴られたときの状態だよ。見た目だけなら元の形に戻すことはできるけど、神経はやられてるしこちら側の目は見えない。だから君にまた会うまではこのままにしていたんだ。これを見るたびに、君への憎悪が深まるからね。でももう君にこうして会えたから、元の形に戻してもいいや」

 シュルシュルと崩れた片側の顔が修復され、元の綺麗な顔に戻っていく。

「どうしてお前が魔石を持っているんだ」
「僕は見つけた魔石を全てハイルさんに渡していたわけじゃない。そもそもハイルさんを信頼していたわけじゃないし。僕はずっとずっと研究一筋で生きてきたから、本当はリリィちゃんの持っていた赤い雫の発動の仕方も知っていた。僕はね、いつかあの研究機関を乗っ取ってやろうってずっと考えてたんだよ」

 レインは、美しい顔で妖艶に微笑みながら言葉を続ける。

「僕たちの施設を破壊したのも、この周辺の町を破壊したのも、ハイルさんだ。魔物に魔石をわざと取り込ませて、どれほどの力なのか、どれほどの被害がでるか、ハイルさんは実験したんだ。そして運よく助かった僕たち生き残りを、研究に使うため飼い殺しにするためにやったんだよ。それを知ったとき、本当に驚いたし、許せないと思った」

 でも、とレインから微笑みが無くなる。

「君たちが来て、あの研究機関自体が無くなってしまった。ハイルさんも死んでしまったし、リリィちゃんは僕のこと好きでいてくれないし、僕の生きている意味はなくなっちゃった。だから」

 フワッとレインの体が浮かび上がり、さらに禍々しい魔力がレインの周りに渦巻く。

「君を倒して、リリィちゃんを殺して、僕も死ぬ」

 嬉しそうに微笑んで、レインは片手をユリスへ向けた。
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