移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「お、前、また、殴……」
「お前はちゃんと見なきゃいけないものがあるんだ。だから今回は気絶しないように加減をしたし、両目が使えなくなることがないようにこの間と同じ側を殴ったから。その片目であの顔を見てみろよ」

 グイッと胸ぐらを引き上げ、ユリスはレインの顔をリリィの方へ向ける。

「リリィの顔が見えるか。お前は好きな相手をあんな表情にさせてるんだぞ。あんな顔にさせて、あんな辛そうな表情にさせて、お前は本当に好きなのか。お前が好きなのはリリィじゃない、リリィに執着する自分だろ」

 ユリスに言われてレインはリリィの顔を見る。レインの片目に映るリリィの顔は、辛そうで苦しそうで今にも泣き出してしまいそうな、でも必死に泣くのを堪えている顔だった。

「リ、リィ、ちゃ……」

 声にならない声で呟くと、ユリスが胸ぐらをまたグッと寄せてレインの顔を覗き込む。

「いいか、お前はリリィのことを好きでもないし大切にもしていない。お前はただだだを捏ねてるだけだ。お気に入りだったぬいぐるみを取り上げられた子供みたいに」

 ユリスの言葉に、レインは片目を見開いて憤ろうとする。だが、ユリスはそれを許さなかった。
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