移動初日の歓迎会で記憶を失い朝目が覚めたら女嫌いで有名な先輩が隣で寝ていました
「本当に好きなら、大事なら、愛しているなら、あんな顔させるなよ。俺は絶対にリリィにあんな顔させたくない。大事だから、大切だから、愛しているから、笑顔でいてほしい。心の底から笑って、幸せでいてほしい」

 レインはユリスの顔を見ながらどんどん眉を下げ始めた。

「昔、リリィの笑顔がお前は好きだったんだろ。それなのに、お前はリリィを笑顔にさせるどころか、悲しませてばかりだ。そんな奴に、俺は負けないしリリィは渡さない」

 そう言ってユリスはレインの胸ぐらを離す。離した衝撃でレインは地面に仰向けに倒れ込み、そのまま動かなかった。

「ぼ、くは、僕は」

 地面に仰向けのままレインは両目に涙を浮かべ、呟く。レインのそばを離れ、ユリスがリリィたちの方へ歩き出すと同時に、リリィはユリスとレインの方へ走り出した。ユリスは俯いたまま歩き、走ってきたリリィはユリスを一瞬見て、そのまま通り過ぎた。

「レイン君!」

 レインの元にひざまづいたリリィは、涙を浮かべたままレインのそばに両手をついてレインを見つめる。

「ごめんね、レイン君、ごめんね。私、レイン君のこと何もわかってなかった。あんなに一緒にいたのに、いつもレイン君のそばにいて世話もしていたのに、何もわかってなかった。何も気づいてなかった。ごめんね、ごめんねレイン君」

 そう言ってリリィは両目からぼたぼたと涙を流す。その涙はレインの顔に降り注ぎ、レインの目尻をつたっていく。

「どう、して、あやま、るの。リ、リィちゃ、んは、何も、悪く、な……わる、い、のは、僕の……ほ……」

 そう言ってレインは両目から涙を溢れさせ、ワンワンと子供のように泣いていた。


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