ギムレット





「いらっしゃいま………
って、今日もアナタですね」


「今日も今日とて寂しい店ね」


「その悪趣味な定型文、どうにかなりません?」


「いつものって聞かないの?」


「………どうせそうでしょ」


「うん。
にしても、やっぱり垢抜けないね、君は」


「え、いきなり悪口」


「一番はその話し方かな。
そろそろ昔いた土地の言葉なんて捨ててはどう?」


「何回も言いますけど。
俺は絶対、東京には染まらへん」


「あーやだ。西の民はみんなそう言う。
共通のプログラミングでもされてるの?」


「アナタも西の民でしょ」


「私はこっちに来たと同時に捨てたもの。母国語は」


「…… そろそろやめません?
カッコつけて関西弁のこと母国語って言うの。
とにかく俺は変えませんよ」


「意地が強いわね」


「いや、それはそっちでしょ。
意地張って無理にかえようとするから、
そうやって不自然な話し方になるんすよ。
なんかエセっぽいというか。
あと、たまにイントネーションもおかしいし」


「でもほんと、
思い出しちゃうからやめてほしいなぁ」


「よう言うやないですか。
男は『名前をつけて保存』で」


「あー、女は『上書き保存』ね」


「そう。だから上書きしたらええんですよ」


「アップデートする程の容量、空いてないわ」


「……次から炭酸あるのにしたらどうですか」


「どうして?」


「泡と一緒に、消せるかもしれんでしょ?
ストレージ圧迫させとる、そのゴミを。
"ジン・トニック"とかね」


「あら。シャレたことも言えるのね」


「自分で捨ててくれたらラクなんですけど」


「蓋が重いのよ」


「いやいや。持ってみたことなんてないやん」


「まあ、今はね」


「……で?グラス空いてますけど」


「ありがとう、もらうわ。
いつものギムレット」


「はーい……」




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