イジワルな君の甘い溺愛


入院してから2ヶ月もしないうちにお父さんは死んでしまった。
私の11歳の誕生日を目前にして。


お父さんのお通夜には栗山くんのお父さんも栗山くんも参加した。


けどその時の私はお父さんがいなくなったことを受け止められなくて……。


もしお父さんの遺影を見ればいなくなったことを認めざるをえないのが怖くて、どうしても通夜の会場に入れなかった。


だから私は通夜の会場から離れたところで座っていた。
お父さんが私の誕生日プレゼントとして渡そうとしてくれていた本を見つめながら。


これ、ちゃんとお父さんが渡してよ……
赤ちゃん、抱っこするんだって言ってたじゃん…


いろんな思いが、心の中を濁流のように流れていく。


眼鏡のレンズ越しに見える本の表紙が、ゆらゆらと揺れている。
今にも、涙が落ちそうだった。


「…おい、お前こんなところで何してんだ」


けど、聞き慣れた声がして、私は溢れそうだった涙を堪えた。
今、一番聞きたくない、大嫌いなやつの声。


「こんなとこにいていいのかよ、お前の父さんの…」


「ほっといてよ。栗山くんには関係ない…」



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