黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい

氷結辺境伯との出会い

「わしのいうことが聞けないのか!」

 パアアアンという音と共に怒声が鳴り響き、一人の令嬢がその場に崩れ落ちた。叩かれた頬に片手を添えてうなだれているその令嬢の名前はソフィア。明るいブロンドの長い髪にアメジストの瞳の小柄な女性。彼女はエルガン家の令嬢だが、実の娘ではない。
 ソフィアの両親はソフィアが五歳の時に事故で亡くなった。身寄りのないソフィアは父親と同僚であったエルガン子爵に引き取られるが、引き取った理由が「同僚のかわいそうな一人娘を引き取る優しい家柄」という体裁が欲しかっただけで、実際のところソフィアは冷遇されていた。

「あなた、顔はだめだと言ったでしょう。見えるところに傷や痣があると先方に疑われますしこちらの価値も下がりますわよ」

 エルガンの妻でありソフィアの義母であるエマはエルガンを見ながら怪訝そうな顔で言った。その言葉に、エルガンは不機嫌そうに舌打ちをしながらソフィアを見た。

「いいか、お前は黙ってシャルフ辺境伯の家に行け。行けば何をすべきかわかる。質問も口答えも許さん!」
「あら、シャルフ辺境伯だなんてお父様、ソフィアがかわいそう」

 そう言ったのはエルガン家長女のルシルだ。ソフィアにはルシルの他に義兄がいるが仕事のため家を空けることも多く義兄に会うことは滅多にない。ソフィアはほぼ義父母と義姉と共に過ごし、いつも蔑まれていた。今回も義姉のルシルはかわいそう、と口にしながらもうふふと笑い愉悦に満ちている。

(シャルフ辺境伯……聞いたことがないけれど何がかわいそうなのかしら。どうせ聞いても答えてくださらないしまた叩かれるだけなのだろうけど)

 ソフィアはほとんど外と関わりを持たせてもらえず、侍女のような扱いを受けていた。そのため、シャルフ辺境伯のとある恐ろしい噂も知らない。

「……かしこまりました」

 ソフィアがその場で静かにお辞儀をすると、義父母と義姉は嬉しそうに笑った。

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