黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい
 ルードの力強い言葉に、エルガンとルシルは驚く。そして何よりも一番驚いているのはソフィアだった。驚くソフィアをよそに、ルードはソフィアの肩をグッと引き寄せ、腕に抱きしめた。

「ルード・シャルフはソフィア・エルガンを妻とすることをここに宣言し、近いうちに結婚します。なのでそちらの話はなかったことに。どうぞお引き取りを」

「そ、そんな、馬鹿な……結婚だなんて、どうせ白い結婚なのでしょう?目を治したソフィアに情けでもかけているのかもしれませんが、そんなの認められません」
「なぜ勝手に白い結婚だと決めつける?俺はこんなにもソフィアを愛しているんだ。ソフィアを手放すつもりなど毛頭ない」
「い、いや、待ってください!ソフィア、お前はどうなんだ?本当にシャルフ様と結婚を?二人はそんな仲だと言うのか!?」

 エルガンに問い詰められソフィアは言葉に詰まる。ここでそんなことはないと言ってしまえばきっとエルガンはすぐにでもソフィアをここから連れ出すだろう。そんなのは絶対に嫌だ。何をされるかわからない魔法機関に行くなんて耐えられないし、何よりもルードのそばを離れることなど耐えられない。
 だが、自分のような人間はルードのそばにいるべきではない、そうずっと思ってきた。だったらこれがチャンスなのではないか?そうやっていくら考えても、堂々巡りをするだけで一向に答えは出ない。

 ただただ呆然とするソフィアの手を、ルードは静かに、だが熱くしっかりと握りしめた。その感触に思わずソフィアがルードを見ると、目があった。ルードの瞳は優しくソフィアを捉えている。だがその瞳の奥には燃えるような熱さを秘め、まるで早く答えてくれと訴えているかのようだ。

 ルードの気持ちはきっと情けなのだろう。義父たちから一時的にソフィアを守るためで、さっき言った言葉も本心ではないに決まっている。それでも、それでも。

「わ、私はルード様のお気持ちに答え、これからもずっと一緒に生きていきます。絶対にルード様のおそばを離れたりはしません!」

 震える声で、だがしかし声高らかに宣言したソフィアを、ルードは誇らしく嬉しそうな目で見つめていた。だが、そんな二人を引き離そうと言わんばかりにルシルが甲高く叫んだ。

「お、お前のような見窄みすぼらしい娘がシャルフ様と結婚だなんて!あり得ないわ!今すぐに撤回なさい!さぁ、早く!」

 気が動転しすぎてルードの前ということも忘れ、ルシルは威圧するような態度で睨み思わずソフィアに手をあげる。
そしてソフィアはいつものようにぶたれるのだと思いぎゅっと両目をつぶった。だが、ルシルの手をルードがはらい除ける。

「いい加減にしてください。貴方は見た目は確かに美しいのかもしれない。だがこの態度はなんだ?血がつながらないとはいえ妹を蔑み手をあげ威圧する。とてもじゃないが気品のあるご令嬢がすることではない。心は随分と醜いようだ、そしてその醜さが見た目にありありと映し出されている」

 ルードの言葉にルシルは驚き、慌てて取り繕おう。

「ち、違うんです、こ、これは」
「何が違うんです?言い訳など必要ない。さっさとお引き取りください。そして、もう二度と我々の目の前に現れるな。もしまた同じようなことをしてみろ、お前たちの家など簡単に潰してやるから覚悟しておけ」

 エルガンとルシルへ向けるルードの視線はまるで心まで凍らせるかのようで、氷の瞳の力が治っても氷結辺境伯の名にふさわしいほどの冷酷さを秘めていた。

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