黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい
(!?)

 驚いて口を開いたソフィアの口内にルードの口から水が流れ込む。驚きながらもそのままコクコクと水を飲むと、ルードは口を離して微笑んだ。

「すまない、こぼしてしまったようだ」

 ソフィアの口の端から一筋の水が流れているのが見えると、ルードは何を思ったのかまた顔を近づけその水を舐めとる。

「よし、これでいいな」

 ルードは水を舐めとり満足そうにそう言ってソフィアの顔を見ると、ソフィアは顔を真っ赤にしながらも蕩けたような顔をしている。

(自分でやっておいてなんだがこれはまずいな、やりすぎた)

 ドクドクと全身の血が流れ始めるのを感じ、ルードは頭をブンブンと振って無理やり切り替える。

「ソフィア、今日はゆっくり休むといい。俺はちょっと外に出て頭を冷やして来る」

 ルードの言葉にソフィアはぼんやりしながらキョトンとする。そんなソフィアを見てルードは苦笑した。

「俺の頭が冷えたら一緒に朝食を食べよう。ここに朝食を持って来させるからソフィアはそれまでゆっくり寝ていればいい」

 そう言ってルードはソフィアの頬に優しくキスをすると、嬉しそうに寝室を後にした。

(行ってしまった……)

 ルードをぼんやりと見送りながら、静かになった寝室でソフィアは結婚式のことを思い出し嬉しさで自然と笑顔になっていた。さらに昨晩と先ほどのことを急に思い出して恥ずかしくなり、思わず両手で顔を覆う。

(ルード様とついに夫婦になったんだわ!それにあんなことまで……それにさっきのは一体なんだったのかしら……ルード様ったら突然積極的になるから驚いてしまう)

 静かにため息をついてソフィアは立ち上がり、カーテンを開けて窓を開いた。窓の外には青空が広がり、心地よい風がソフィアを包み込む。

(本当に私はここでこれからもルード様と一緒に生きていくんだわ。ルード様に出会ってこんな風になるなんて、義父の家にいた頃には思いもしなかった。私は本当に幸せ者だわ。ルード様にいただいたこの幸せをずっとずっと大切に、ルード様と一緒にこれからも育んでいこう)

 暖かな日差しを身体中に感じながら、ソフィアは決意を胸に澄んだ瞳で青空を見上げた。



◇◆◇


 ソフィアの部屋の本棚に、一冊の古びた本がある。それはありとあらゆる古代の魔法が記された古文書でソフィアの実家に代々受け継がれてきたものだ。ソフィアは義父の家にいる間外に出るのを禁止されるのと同時に本を読むことも禁止され、その本は開かれることもなく荷物のずっと奥底に眠っていた。
 ルードの家に来てからも毎日が忙しく充実した日々で、本のことはすっかり忘れて本棚に放置したままになっていた。

 ルードとソフィアが結婚して数年後、二人の間には玉のように可愛らしく好奇心旺盛な子供が誕生する。その子供がすくすくと成長しソフィアの部屋の本棚でその古文書を見つけ、ソフィアにはなぜルードの氷の瞳の力が効かなかったのか、なぜルードの紋様が消え氷の瞳の力がなくなったのか、その理由を知ることになるのはまだ少し先の話だ。

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