黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい
 静かに謝ると、ルードはなぜソフィアがシャルフ家に呼ばれたのかを話し始めた。

「俺の右目は見るものを氷に変える。この目は呪われた目だとも新しい力だとも言われているが、どちらにしても世間では恐ろしい目でしかない。この紋様を見てくれ。これが氷の瞳を持つ紛れもない証拠だ」

 そう言ってルードは右手首を見せる。そこには黒い魔法陣のような紋様が刻まれていた。その紋様はこの国に古くから言い伝えられており、氷、石、炎、風といずれかの能力一つを発揮して、体に紋様が現れた側の瞳で見た命あるものを氷もしくは石に変え・炎で焼き尽くし・風で切り刻む、と言われている。その紋様の発現は一万人に一人とも百万人に一人とも言われるほど珍しく、詳しいことはわかっていない。

「俺の場合は氷だった。両親は生まれてすぐ右手首の紋様に気づくと、紋様と右側の目を隠した。フードを被せられ、眼帯を付けられなるべく人と会わないように、あっても目を見ないように育てられた。ずっとそうして過ごして来たが、物心ついた頃に所詮は言い伝えだろうと思って眼帯を外し花を見てみたんだ」

 すると花は瞬く間に凍り、それをたまたま見ていた侍女が騒いでしまう。その話は瞬く間に広がり、シャルフ家の長男は氷の瞳を持つと有名になってしまった。

「俺の好奇心のせいでこの家は他の貴族からひどい扱いを受けるようになった。俺のせいなのだから俺がなんとかしないといけない。そう思って家を継いでからは必死で家を立て直した。なんとか辺境伯家としての威厳を保てるようになり、両親も安心して隠居している。だが、どうしてもままならないことがある」

 ルードは静かにため息をついてから言った。

「結婚相手だ。俺もいい歳だし家のためにもそろそろ結婚をと周りからも口うるさく言われる。だが、こんな氷の瞳を持つ男に嫁ごうなどと思う奇特な令嬢はいない。誰もが怖がり、俺を見ようとはしないんだ。前髪を伸ばし眼帯をして隠していても、いつこの瞳に見られるかと皆怯える。ついたあだ名が氷結辺境伯だ。だったらこの瞳をどうにかするしかない。その方法を必死に探していた時、たまたま君の義父上にお会いしてね。上級の治癒魔法を使える娘がいるから婚約したらどうかと言われたんだ。上級の治癒魔法であればもしかしたらこの瞳も直せるかもしれないと」

 この国で上級の治癒魔法を使える者は珍しい。ソフィアの実家は治癒魔法に特化した家柄で、ソフィアも小さい頃から治癒魔法に特化し、誰に教えられるでもなくあっという間に上級魔法まで使えるようになっていた。

 だがそんなソフィアを義姉は快く思わず、上級の治癒魔法が使えることでソフィアが自分よりも特別扱いされることを懸念し、魔法を使えることを隠すように言われ続けていた。

 だからこそ、ルードの話をソフィアは丸い目をさらに大きく丸くして聞いていた。なるほど、義父があれだけ何も聞くなただ行けばいいと言った理由がわかる。あの義父はソフィアを追い出す名目が欲しかったのだ。

「君の義父上は娘も全て承知の上で嫁ぎたいと言っていると。その言葉を鵜呑みにした俺が馬鹿だった……すまない。君は何も知らされることなくここに来たんだな」

 ルードはため息をつき、窓の外を静かに眺めた。フードで顔は隠れているが、きっと落胆の表情をしているのだろう。

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