黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい
「申し訳ありません、私は確かに上級の治癒魔魔法を扱えますが、そのような瞳に対する治癒魔法を知りません。ですからシャルフ様の瞳を治す方法もわからないのです。お役に立てず申し訳ありません」

 ソフィアの言葉にルードはしばし無言だったが、おそらくはさらに落胆していたのだろう。少し経ってからルードは静かに口を開いた。

「こちらこそ本当にすまなかった。婚約の話はなかったことにしよう。君の義父上にもキツく言っておくよ。育ての娘とはいえ、何も説明せずこんな風に勝手に婚約の話まで進めるなんて」
「ま、待ってください。義父には何も言わないでください。それに、今帰されたところで私は……」

 そう、もうソフィアに帰る場所などない。帰った所で何をしていると叩かれ、今までと同じように侍女のように働かされるのだ、もしかしたら今まで以上にひどい仕打ちを受けるかもしれない。

 ルードはふと、ソフィアの頬にうっすらと残る痣のような痕に気がついた。

「まさか君は……そうか、君も辛い思いをして生きているのか」

 ソフィアの怯えるような様子を見て、ルードは神妙な面持ちになる。

(この子をあんな義父のいる家に帰すのは忍びない。だからといってどうすれば……)

 考えこむルードを見つめながら、ソフィアは静かに口を開いた。
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