黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい
「あの、シャルフ様。もう一度お顔を見せてはくださいませんか?」
「は……?何を言って……言っただろう、俺の右目は見たものを氷にする」
「ですが先ほど私は貴方様のその瞳を見てもなんともありませんでした」

 確かに、先ほどソフィアはルードの両目をしげしげと見つめていたが、何も起こらなかった。

「理由はわかりませんが、私はおそらくシャルフ様の目を見てもなんともありません。それを確かめるためにも、もう一度お顔を見せてくださいませんか」

 ルードの目の前に立ってそういうソフィアに、ルードは強い気迫を感じる。

(この子は……すごいな、さっきのはまぐれで今度こそ氷になってしまうのかもしれないのに。いや、いっそ氷になってしまいたいとでも?)

 そんな考えをしているとしたら馬鹿げている。だがソフィアにはそんな様子は見られない。どのみち帰すこともできない、だとしたら一つの望みに欠けてみるか。

「わかった、君にこの瞳を見せよう」

 そう言って、ルードは静かにフードをあげ、ソフィアの顔を見た。その瞳を、ソフィアはじっと見つめる。

(やっぱりとても美しいわ……!こんなに美しい瞳を隠さなければいけないだなんて)

 瞳を見つめるソフィアは氷になるどころか何も異常は見られない。

(やはりこの子には俺の氷の瞳は効かないのか。一体なぜだ?それにしてもこの子の瞳も美しいな、まるでアメジストのように透き通るような美しさだ)

 ソフィアの美しい瞳を見つめ、ルードはなんとも言えぬ不思議な気持ちになっていた。

「やっぱり何も起こりませんね、それにシャルフ様の瞳はとっても美しいです」

 嬉しそうに微笑むソフィアの笑顔はまるでその場一面に花が咲くようで、ルードは思わず胸が高鳴る。

(この胸の高鳴りはなんだ?胸が苦しい、ドキドキして熱い)

「シャルフ様、お願いです。どうかこの家に置かせてはいただけませんか?侍女でも構いません、家事については一通り全てこなすことができます。お恥ずかしい話ですが私にはもう帰る場所がありません。どうかシャルフ様のおそばに置いて、身の回りのお世話をさせてはいただけませんでしょうか」

 ソフィアの言葉にルードは驚き、すぐに首を横に振る。その返答にソフィアは悲しい表情をするがすぐにルードは口を開いた。

「君に侍女のような扱いをすることはできない。例え義父上の家ではそうだったとしても、この家で他所様のご令嬢にそんなことはさせられない。君には、そうだな、俺の話し相手になってほしい」
「話し相手?」
「俺は眼帯を外して両目で誰かと話をしたことがない。できないからだ。だが君にはそれができる。それに君は俺を恐れないだろう。他の人間は俺が眼帯をしていてもどこか怯えるようにしている。だが君はそんなそぶりを見せるどころか俺に微笑んでくれた。どうかこの家で俺の話し相手になってくれ」

 ルードがそう言うと、ソフィアはまた嬉しそうに微笑んだ。

「もちろんです。ありがとうございます、シャルフ様」

 その優しく花が綻ぶようなソフィアの笑顔に、ルードはまた心臓が高鳴るのを感じた。

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