黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい
 ソフィアがルードの家に来てから一ヶ月が経った。
 その後も二人は屋敷の外を散歩したり、二人で街に出て買い物をしたりと仲睦まじく過ごしていた。今までは街に出ることなど滅多になく出てもフードを深々と被り真顔でほとんど喋ることのないルードだったが、ソフィアと一緒ということで気が緩むのだろう、あの寡黙な氷結辺境伯が眼帯をつけてはいるがフードを外し女性を連れて笑って歩いていると街中、さらには領地全体でもっぱらの噂になるほどだった。


「ソフィア様」
「!、ギル様」
「あぁ、私なんぞに様をつけるなどおやめください。どうか私のことはギルと呼ぶようにといつも申しているではありませんか」

 ソフィアを呼び止めたのは執事のギル。ソフィアがこの家に来た際にルードと共にいた人物だ。

「ソフィア様に折行ってお話がございます」

 真剣なギルに、どうしたのだろうとソフィアも緊張する。

「どうか、ルード様との婚約を今一度お考えいただけませんでしょうか」
「え、え?」
「ソフィア様が来てからと言うもの、ルード様は見違えるようにイキイキしておられます。ルード様のあんなに嬉しそうな顔を見たのは初めてです、それもこれも全てソフィア様だからこそ。ソフィア様であればルード様の瞳を見ても問題ありません。ルード様にはソフィア様しかいないのです」

「ギルはルード様のことを本当に大切に思っているのですね」
「私は先代の頃からずっとこの家に仕えてまいりました。ルード様が生まれてからもルード様の成長をずっと見守り続けてきたのです。私も、ソフィア様のようにルード様と目を合わせて話をすることができたらと……それができない悲しさと悔しさを胸にしまいながらずっとお仕えしております」

(ルード様は本当に愛されているのね。ギルはずっとずっとルード様のことを気にかけていらっしゃったんだわ)

「どうか、ルード様との婚約を今一度お考えください。この通りです」

 静かにお辞儀をするギルに、ソフィアは慌てて手を差し伸べた。

「どうか頭を上げてください。それにそのような話はルード様も……」

 そう言いかけて、遠くからソフィアを呼ぶ声が聞こえた。

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