黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい

「……ソフィア!ソフィア!」

 曲がり角を曲がってルードが慌てて走ってきた。ソフィアの姿を見つけて途端に笑顔になる。

「ソフィア!ここにいたのか!これを見てくれ!」

 そう言ってルードは右手首を見せた、そこにはあるはずの黒い紋様がない。

「ルード様、これは?」
「ソフィアが来てから少しずつだが紋様が薄くなっていたんだ。気のせいかと思っていたが今朝すっかり消えていたんだ。まさかと思って両目で花を見つめてみたんだが、花が凍らなかったんだよ!」

 ルードの言葉に、ソフィアもギルも目を丸くする。

「そのほかにもいろいろな植物で試してみたんだが、どれも凍らなかった!もしかすると俺の目が!氷の瞳の力がなくなったのかもしれない!」
「……本当ですかルード様!よかった!すごいです!」

 喜ぶソフィアをルードは持ち上げ、クルクルと回る。
「ルード様!ルード様ったら!」

 キャッキャと嬉しそうに喜ぶ二人を、ギルは潤んだ瞳で見つめていた。

「ルード様」
「ギル!」

 ギルに気づいたルードはゆっくりとソフィアを下ろし、ギルの手を掴んだ。

「まだ確実とは言えないが、俺の瞳がもしかしたら治ったかもしれない」
「えぇ、えぇ!どうか、どうかその目で私も見てください。私は貴方様ときちんと目を合わせてお話しする日をずっと夢見てきました。願いがもし叶うならどうか」
「だめだ、まだ確実ではないんだぞ」
「いいえ、それでもいいのです。私は貴方様と目を合わすことができるのなら、自分が凍りついても構わないとずっと思ってきました。どうか、どうか」

 涙ながらに訴えるギルに、ルードは戸惑いを隠せない。そっと横にいるソフィアを見つめ、ルードは決意したように右目を覆っていた黒い眼帯を静かに外した。

「ギル」
「ルード様……あぁ、ルード様!」

 ギルの瞳には不安げな顔をするルードの顔が映っていた。ギルは凍りつくことなくじっとルードを見つめ、その瞳からは大粒の涙が流れ落ちる。

「ギル、ギル!お前にはずっと苦労をかけたな」
「ルード様!……そんな滅相もない!貴方様とこうして両目を合わせてお話しすることができるなんて……」

 そのまま泣き叫ぶかのようなギルを、ルードがしっかりと抱きしめる。その二人の様子を、ソフィアも涙を流しながら見つめていた。


 その後、万が一のことがあってはならないと黒い眼帯を完全に外すことはなかったが、少しずつ眼帯を外す時間を増やし、最終的にルードは眼帯をすることなく両目で全てのものを見ることができるようになった。


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