黒眼帯の氷結辺境伯は冷遇された令嬢を一生涯かけて愛したい
「これも全てソフィアのおかげだ。本当にありがとう」
「いえ、私は本当に何もしていないのですから。ルード様がこうして両目で世界を見ることができるようになって本当によかったです」

 二人は屋敷から少し外れた小高い丘に来ていた。そこはシャルフ家が所有する領地の一角を一望できる場所で、この日はお弁当を携え二人でピクニックにやって来たのだった。

「君が来てくれてから俺の世界は本当に変わった。すべてが輝いて見える。ずっと暗がりの中にいた俺を光のある場所へ連れ出してくれたんだ。君には感謝しかないよ」

 ルードは両目で見れるようになったことでさらに自信を強めたのだろう、元々できる男ではあったが仕事はさらに順調になり、ルードと遠慮がちに距離をとっていた人間とも良好な関係を築けるようになっていった。

「氷の瞳の力がなくなったとたんにすり寄ってくるような貴族やご令嬢がいるのは正直いってうっとうしくてならないけれどね」

 苦笑混じりにそういうルードを見つめ、ソフィアは心の中で静かにため息をついていた。

(氷の瞳の力が無くなったのだから、これからルード様はさらにたくさんの広い世界を見ることができる。誰とでも目を見て話すことができるようになったのだから、もう私はルード様のそばにいるべきではないのに)

 ルードはソフィアのおかげで見える世界が広がったと言ったが、ソフィアもまたルードによって見える世界が広がったことを実感していた。義父の家では侍女のような扱いをされ外とは一切関わりを持たされることもなく隔離されていた。だがルードと出会い、ルードによって外の世界と関わりを持つことができた。屋敷の外に出て、街へ行き色々な人々と話をする。知識も増え、自分の中の世界が大きく大きく広がったのだ。
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