罪をきせられ断罪された聖女は愛読書だった恋愛小説のモブキャラに転生して溺愛されることになりました
 気を失った、というのは一体どういうことだろうか。確か自分は炎に焼き尽くされたはずだった、炎の熱さは全く感じないまま意識が無くなってはいたが。そもそもここは一体どこで目の前の美しい顔の男は一体誰なんだろう。キョロキョロと辺りを見渡すとどうやらどこかの庭園のようだ。王城にも庭園はあったが聖女の頃は忙しくて庭園など滅多に足を踏み入れたことはなく、今いる庭園も見覚えはない。

「イリウス様。そろそろ日も傾いてまいりました、屋敷の中へ」

 ふと気配を感じてそちらを見ると、灰色の長めの髪を一つに束ねた男がそう言って切長の瞳を静かにエルレアたちに向ける。

「そうだなヴェイン。エルレア、寒くなる前に屋敷へ戻ろう」

 イリウス様という名前、そしてヴェインと呼ばれた側近のような姿をした男を見た瞬間にエルレアは雷に打たれたかのような衝撃を受ける。

(イリウス、様……?それにヴェインと呼ばれた男の見た目も名前も……いやまさかそんな)

 驚きで動けないエルレアへ手を差し出し、イリウスは首を傾げてエルレアを見た。

「エルレア?さっきから様子がおかしいけれど大丈夫?」
「……えっと、いえ、あの、すみません、何でもないんです……あっ!」
「危ないっ」

 動揺し立ち上がったはずみで思わず前のめりになる。それをイリウスがしっかりと抱き止めた。細く見えた体は意外にもしっかりと鍛えられているのがわかり、自分とは違う男らしい体つきに思わずまた身体中に熱が走る。しかもとても良い香りがして余計にクラクラしてしまう。

「す、すみません!」

 慌てて離れようとするがそれを制してイリウスが静かにゆっくりとエルレアを支え起こしてくれた。

「落ち着いて。大丈夫だよ、気にしないで」

 フワッと優しく微笑まれエルレアはまた倒れてしまいそうだ。だが、ここで倒れてしまってはまたイリウスに迷惑をかけてしまう。何とか気を保ってエルレアはイリウスにエスコートされながら屋敷へ向かった。

< 2 / 11 >

この作品をシェア

pagetop