罪をきせられ断罪された聖女は愛読書だった恋愛小説のモブキャラに転生して溺愛されることになりました
 屋敷に戻り少し話をするとイリウスとヴェインは馬車で帰っていった。よくわからないまま自分の部屋だと言われた場所へ行き、部屋の中のソファに腰掛ける。

(え、え、え?どういうこと?)

 イリウスとヴェインとの会話で、今いる世界がなぜか生前の数少ない娯楽の一つで愛読書だった恋愛小説の世界と同じだということがわかった。いや、そんなことはあり得ない。絶対にあり得ないのだが、何をどう聞いても、どこをどう見てもその世界なのだ。

 その愛読書は、伯爵令息で騎士のイリウスが主人公である子爵令嬢のメアリと恋に落ち、紆余曲折ありながらも身分差の愛を育んでいく王道のラブストーリーだ。
 聖女は恋愛などすることは許されず、恋というものがどういうものなのかも全くわからなかった。ただ、恋愛小説の中のイリウスに憧れを抱きながら日々の忙しさを何とか乗り越えていたのだった。

(あの小説の中にエルレアなんてキャラは当たり前だけど登場しなかったわ。アディス伯爵家の長男ジオルは確か脇役でたまに出てきていたけれど、妹なんていなかったはずだし……)

 生前に聖女だったエルレアは、この世界ではエルレア・アディスというらしい。兄の名がジオルらしいので恐らくはそのキャラの妹ということなのだろう。
 どういうことなのかさっぱりわからない。作中ではアディス家にイリウスがやって来るシーンなどどこにもなかったはずだ。なぜ彼はこの家に来てジオルの妹と話をしていたんだろうか。そもそも夢でも見ているのだろうか?
 そうだ、これはきっと夢だ。死ぬ間際、もしくは死んでいる最中なのかもしれないが、都合のいい夢を最期に見ようとしているのかもしれない。そうでなければこんなことはあり得ないしおかしいのだから。

(死ぬ間際に、令嬢になってみたいという願望が見せた夢なんだわ、きっと。あぁ、もしかしたらこれから素敵な方に出会って恋に落ちるのかもしれない。そうだわ、どうせ死んでしまうなら、夢の間は楽しんでしまおう!これは神様がくれた束の間の幸せかもしれないし)

 どうせ死んでしまうのだから、という諦めにも似た感情が、エルレアにこの世界を楽しもうと思わせたのだった。
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