罪をきせられ断罪された聖女は愛読書だった恋愛小説のモブキャラに転生して溺愛されることになりました
「初めまして、メアリ・ラングレッドと申します」

 薄桃色の長い髪をふわりと靡かせてドレスの裾を掴み静かにお辞儀をするその令嬢を見て、やっぱりこれがあの小説の主人公なのだとエルレアは確信した。そっと横にいるイリウスの顔を見ると特に変わらぬ笑顔で挨拶を返している。婚約者としてエルレアのことも紹介しており、エルレアは流れのまま挨拶をする。

(イリウス様、メアリを見ても何も変わらない……どうしてかしら)

 小説ではメアリを見た瞬間にその可憐さに一目惚れをするのだ。イリウスがメアリと次にあう約束を取りつけるまでが社交パーティーでの出来事だが、そんな約束を交わすこともないままありきたりな会話をしてメアリとの挨拶は終了した。

(えっ、そんな、えっ)

 立ち去るメアリをエルレアは動揺しながら見つめる。そんなエルレアをイリウスは不思議そうな顔で眺めていた。

「エルレア?どうかした?」
「えっ、あの、その、えっと」

 チラチラとメアリの方を見るが、メアリはすでに違う御令息と笑顔で挨拶を交わしている。

「先程の御令嬢がどうかした?……それとも」

 ジッと目を細めてエルレアを見つめるイリウス。なんだろうか、少し不機嫌そうにも見える。

「俺以外の、他の御令息が気になるのかな」

 イリウスはエルレアに顔を近づけて耳元でそっと静かに言った。低く少し圧を感じるような声。驚いてイリウスを見るとその顔は少し寂しそうだ。どうやらメアリと話している御令息を見ていると勘違いしたようだ。

「ち、違います!イリウス様以外の男性には興味ありません」

 慌ててそう言ってから自分の発言に思わず赤面してしまう。そんなエルレアを見てイリウスは心底嬉しそうに微笑んだ。

「それならよかった。……挨拶も一通りすんだし、そろそろ帰ろうか」
「えっ、でもまだ始まったばかりなのでは?」

 メアリとの約束も取り付けていない。こんな早く帰るなんてとエルレアは慌てるがイリウスはエルレアの体にそっと手を添える。

「エルレアの体調も心配だからね。それにそんな可愛いこと言われたら早く二人きりになりたくなるだろう」

 イリウスの言葉にエルレアはボッと一気に顔を赤くした。

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