サマータイムラバー
(や、やばっ……)

 目が合ってしまい、凪はドギマギとしながら一歩下がった。
 盗み見がバレて気まずいことこの上ない。しかもジロジロと食い入るように見てしまっていたのだ。ストーカー変態女だと誤解されたらどうしよう。

 だが、凪の予想に反して、彼はニッと口角を上げた。

「やっと会えた」
「えっ……え……?」

 てっきり文句の一つでも言われるかと思ったが、なぜか笑顔を向けられて逆に戸惑う。
 彼はパソコンを素早く閉じてブリーフケースにしまい、凪の元へ歩み寄ってくる。
 これはどういう状況なんだろう?

「もしかしたら今日チェックアウトかもしれないと思ってたから、ちょっと賭けてたんだ。諦めなくてよかった」

 まるで凪を待っていたような口ぶりだ。
 凪は目の前にそびえ立つ逞しい肉体を前に混乱しきっていた。頭の中は疑問符で埋め尽くされている。
 
「えっ……あの、お知り合いでしたっけ……?」

 実は昔に会っていたり?全然記憶はないけれど。
 挙動不審になりながらそう訊ねると、彼は凪とは対照的な余裕のあるそぶりで首を横に振った。
 
「いや?けど今日ビーチで会っただろ?溺れた子を助けようとして」

 あれは会ったとカウントしていいんだろうか。というかあの一瞬で認識されていたなんて。やっぱりガン見していたのがバレて……?
 驚きと恐ろしさが混在しながら硬直していると、彼がフッと含み笑いを浮かべた。
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