サマータイムラバー
「本当はあの時声をかけようと思ったんだけど、君、すぐ帰っちゃったから」

 だから待ってた、という彼に、凪は目をパチクリとさせた。
 
「す、すみません。でも、その、どうして私がここに泊まってるってわかったんですか?」
「宿泊者専用のリストバンドをしてただろ?」

 彼は肘を折り曲げて、自分の手首を指差した。
 このホテルのビーチは宿泊者以外も利用可能だが、宿泊者は専用のビーチハウスで休憩が可能なので判別のためのリストバンドが渡されるのだ。
 ああ、それで……と納得すると同時に、凪は彼の筋張った前腕に目を奪われていた。――いや、我ながら変態すぎる。自重した方がいい。凪は咄嗟に目を逸らした。

「君にもう一回会いたかったんだ」

 凪の胸の鼓動が徐々に早足になっていく。
 息が苦しいのは、呼吸を忘れそうになっているから。
 それくらい、彼の全てに魅せられていたのだけれど……。
 
「……君が素早く動いてくれたから、俺もあの子を迅速に救助できた。だからお礼を言いたくて」
「えっ、あっ……ああ、そう、なんですね」

 お礼――そう言われて期待で膨らんだ凪の心の風船がシュルシュルと音を立てて萎んだ。何を期待していたんだろう。考えるだけで恥ずかしい。
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