サマータイムラバー
 控えめに頷くと、彼はニッコリと笑みを深めた。

「そう。君にお礼をしたいと思って」
「いえ、そんな……私は何もしていないですから」

 胸の前で手を振って遠慮を示すと、なぜかその手を掴まれた。逞しい男の手に包まれ、凪の背筋にゾクゾクと震えが走る。
 
「とりあえず飯でも行こう。どこのレストラン予約してる?」
「えっ?いえ、だから別に私は……」
「予約してないなら適当に入るか」

 彼はさも当然のように凪の手を取って歩き出す。凪の主張に耳を傾ける気はないらしい。

(な、なに?なんなのこの展開?)

 状況が理解できないまま、凪は半ば強引にレストランへ連れて行かれていた。
 それでも握られた手を振り解かないのは、決して嫌ではないから。繋がる手から伝わる体温を意識しすぎて、さっきから顔が熱くて仕方がない。
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