サマータイムラバー
 レストランの入り口にいたスタッフは、凪たちを見るやいなや恭しく礼をした。
 
「ごめん、どこでもいいんだけど席を二人分用意してくれるか?」

 彼がやけに気安くそう言うと、一分も経たずして席へと案内された。窓際の席で、窓の向こうには昼間に泳いだビーチが見える。
 凪はスタッフに自分の予約を取り消してもらうように頼んでから、ドリンクメニューを眺めるふりをして向かいに座る彼を盗み見た。すると先程と同じように彼と目が合ってしまって、凪はビクリと肩を揺らした。

「そういえば名前は?」
「お、大場、凪……」
「凪ね。かわいい名前」

 不意打ちでそんなことを言われて、うろたえた凪の手からメニューが滑り落ちそうになる。

「俺は美坂漣(みさかれん)。漣って呼んで」

 そう凪に告げながら、漣はヒラリと手を挙げてスタッフを呼び寄せた。
 
 サラッと凪を名前で呼んだり、かわいいなんて褒めたり、彼は絶対女慣れをしている。凪は密かに警戒を強めた。
 
 もしかしたらお礼と称したナンパだったりするのかもしれない。
 今夜の遊び相手にちょうどいいとでも思われたんだろうか。彼ほど顔の整った男性に声をかけられたら、誰でもついていってしまうだろうから。――現に凪もホイホイついてきてしまっている。
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