サマータイムラバー
「あの、美坂さんは……」
「漣でいいって。それに、そんなにかしこまるなよ」
「いや、でも私より年上ですよね?」
「凪って何歳?」
「二十八ですけど……」
「俺は三十だから誤差の範囲だな。だからほら」

 色気たっぷりの流し目を向けられ、凪はグッと推し黙った。

 漣の押しの強さはこの短時間で実感している。名前を呼ばないと解放してもらえないことを凪は悟っていた。

 ただ名前を呼ぶだけ。男友達だって、名前で呼ぶことはある。
 けれど、漣の時はどうしてこうも緊張するんだろう。
 
「れ、漣……」
「なに、凪?」

(う、うぅ〜)

 猛烈にむず痒い。絶対いいように弄ばれている。
 わかっているのに顔が赤らむのを抑えられない。照れ隠しにシャンパンを一気飲みすると、向かいからクスクスと笑い声が聞こえてくる。

「あんまり飲みすぎるなよ」

(誰の!せいで!)

 凪の調子を狂わす元凶が他人事のように余裕の笑みを浮かべていて、凪は地団駄を踏みたくなった。……踏まないけれど。
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