サマータイムラバー
 ボーイが前菜を運んできてくれて、沸騰寸前だった凪の心は落ち着きを取り戻した。
 魚介のカルパッチョ、野菜のマリネ、キャビアの乗ったパプリカのムースが、まるで芸術品のように綺麗に一皿に盛られている。凪は目を輝かせた。
 
「そ、そういえば、昼間の男の子は大丈夫だったの?」

 早速カルパッチョを口に運び、凪はそれまでの会話の流れを切り替えるように問いかけた。
 実際気になってはいたことだった。

「ああ、ちょっと水は飲んでたけど、体調に問題はなかったよ。溺れたのは急に足が攣ったかららしい。中学生だったんだけど、親が酒飲んで昼寝してたから一人で海に入ってたみたいでさ」
「あー、それは危ないね。漣が助けてくれてよかった」
「俺が早く助けに行けたのは凪のおかげだよ」
「え?だって、私は何もしてないし……」
「俺、最初は凪の方を助けようとしたんだよ。ガラの悪い奴らに絡まれてただろ。だから仲裁に入ろうとしたんだけど、凪がいきなり走り出して驚いて見たら、溺れてる子がいてさ。凪が教えてくれたからいち早く気付けた。だから凪のおかげ」
「こちらこそ……あ、ありがとう……」

 漣の切れ長の瞳が真っ直ぐに凪を見据えてくる。

(な、なんでそんなに見てくるの……?)
 
 心の奥に押し隠した本音すらも見抜く力を宿していそうな眼差し。そのくせ夜空の色をした瞳の奥にある彼の真意は巧妙に隠されていて、凪ばかりが翻弄されている。
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