サマータイムラバー
「どうした、凪?」
「ううん、なんでも。あんなに泳ぐの上手だし体も鍛えてそうだったから、普通のサラリーマンなんて意外だなぁって思っただけ」

 ドロリと溢れそうになった醜い感情に蓋をして、凪はわざと明るい声を出した。

「まあ高校までは、かなり真剣にやってたからな。その頃の名残だよ」
「もしかして、オリンピックとかも目指してたの?」
「いや?別に選手を目指してたわけじゃないけど、でものめり込んではいたな。自分の力でのし上がっていける感じが楽しくてさ」
「私も、その感覚わかるかも。努力が報われて結果が出るのってかなり快感だよね」
「そうそう。俺の場合、親が敷いたレールをずっと走ってるだけだったから、余計にそう思ってたのかもしれない」

 カトラリーを皿に置いて頬杖をついた漣は窓の外に視線を移して、苦笑いを浮かべていた。
 もしかして彼は厳しい家庭で育ってきたのだろうか。凪の親はごくごく普通の、適度に放任してくれるゆるーい親だったので、あまり想像ができない。
 
「けどインターハイまで行って、上には上がいるって自分の限界値を思い知ったらダメだったな。どうしても乗り越えられなかった。そうしたら急速にやる気がなくなってさ。そっからはもう遊びでしかやってない。ライフセーバーの資格を取ったのも暇つぶし」

 漣は自嘲気味に吐き捨て、肩をすくめた。
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