傷心女子は極上ライフセーバーの蜜愛で甘くとろける
 しみじみそう言うと、漣は一瞬大きく目を見開いて、それからどこか照れくさそうに破顔した。

「凪が言うと、お世辞じゃなくて本当にそう思ってるように聞こえるな」
「だって本当にそう思ってるもの。大体の人にそう言われない?」
「いや。大抵の奴らは俺が何してようが誰も興味なんてないよ。何か言われるにしても、ライフセーバーなんてやってないでちゃんと仕事に専念しろって苦言を呈されるだけだ」
「えー、そうなの?みんな、わかってないんだね。ライフセーバーやってる漣、すっごいかっこよかったのに」

 凪は多分酔っていた。平常心だったらこんな好意丸出しの本音は器用に隠せたはずだった。

 あ……と我に返って、自分が今しがた何を口走ったか気づいた時にはもう遅かった。
 こちらを見る漣の眼差しが甘ったるい。
 頬に集まる熱はアルコールのせいだけではなかった。

「それは、良いことを聞いたな」

 漣の唇が色っぽく弧を描く。
 その蠱惑的な笑みを見た瞬間、凪の中でコトンと何かが落ちる音がした。
 
 もう止められない。心も体も自分のもののはずなのに、凪は己の操縦権を失ってしまった。
 心臓を鷲掴みにされたような胸の痛みも、漣がひときわ輝いて見えるのも、全部制御なんてできなかった。

 短い時間で急速に育っていく感情に戸惑いながら、凪は漣の笑顔を見つめていた。
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