傷心女子は極上ライフセーバーの蜜愛で甘くとろける

理性を脱ぎ捨てて

 食事を終えた二人はレストランを出て、客室階へ続くエレベーターに乗り込んだ。

「凪、この後の予定は?」

 隣に立った漣が至近距離でそう囁く。艶をたっぷり含んだ低い声が鼓膜を揺らし、凪は小さく身震いをした。
 
 誘われてる――直接的な言葉はなくても、この先どういう展開が待ち受けているのか、容易に想像がついた。
 凪を見下ろす双眸は、追い詰められた獲物を今にも捕食しようとギラついている。

「……部屋に帰って寝るだけ、だけど……」

 掠れた声しか出せなかった。言い淀んでしまったのは、迷いがあったから。
 このまま流されて朝を迎えたら、きっと後悔する。こんな極上の男に抱かれて、一晩だけと割り切ることなんてきっとできない。

(今度は自分から傷つきにいくの?)

 三日前にフラれたばかりだというのに、なんてバカな女なんだろう。自分でもそう思う。
 ギュッと唇を噛み締めていると、不意に顎を撫でられた。固く引き結んでいた唇を、漣の親指が優しくなぞる。

「噛むなよ。傷つくだろ?」
「…………」
「凪が嫌がることはしない。凪はどうしたい?」

 断崖の縁で今にも落ちそうになっている小石のように、凪の心はグラグラと揺れていた。
 漣と離れがたい。もっと一緒にいたい。でも……体を差し出すことには抵抗がある。そんなワガママが通用しないこともわかっている。
< 28 / 68 >

この作品をシェア

pagetop