サマータイムラバー
 最悪なタイミングで手酷く振った周吾への怒りと憎しみが、胸の生傷からまたジュクジュクと溢れ出す。
 この醜悪な感情が湧き起こって止まないのは、周吾が好きだったから?それとも自分の矜持を傷つけられたから?
 
 突き詰めていくとさらに傷が深くなりそうで、凪はプツリと思考をシャットアウトした。
 立ち上がって、きらめく水平線をじっと見据える。

「とりあえず、泳ご……」

 泳いで、泳いで、そうして何もかも全部水に流してしまおう。
 浮き輪を手に、押し寄せてくる波に足を浸けた。ひやりと冷たい水の感触が心地よくて、凪の顔が思わずほころぶ。
 もう一歩、と足を踏み出そうとしたその時だった。
 
「あっれ〜?お姉さん一人〜?めっずらし〜」

 神経を逆撫でするチャラついた声が耳に飛び込んできて、凪はつい振り向いてしまった。
 ニヤついた男が三人すぐ後ろにいて、凪は即座に振り返ったことを後悔した。
 色が抜けて根元が黒くなった金髪に、明らかに日焼けサロンで焼きました的なこんがり肌。絵に描いたようなチャラ男である。
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