サマータイムラバー
「テメェ、なにすんだよ!」

 バシッと男の手を払いのける。
 荒ぶった男の声はもう耳に入らなかった。
 凪の視線の先にはバシャバシャと飛沫をたてて泳ぐ男の子の姿があった。一見、遊んでいるように見えるけれど――

「誰か!ライフセーバーを呼んで!!人が溺れてる!!」

 そう叫ぶと、凪は勢いよく走り出した。波に足を取られ、もたつきながらもなんとか進む。その間に浮き輪の紐を手首にグルグルと巻き付けて、躊躇いなく凪は波間に飛び込んだ。
 
 これでも中学から大学まで水泳部だったのだ。高校の時は関東大会まであと一歩のところまで進んだこともあるし、泳ぎには自信がある。
 ただ、絡みつけた浮き輪が邪魔をしてなかなか思うように泳げない。もがく男の子に近づけないことにもどかしさを感じながら、それでも必死に波をかき分ける。

 背後から、バシャンと大きな水音が聞こえた。

「君は戻れ!!!」

 鬼気迫る声が鼓膜を突き破るように飛び込んできて、凪は泳ぐのをやめてその場に浮かんだ。
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