サマータイムラバー
 やがて彼らが驚くべき速さで岸まで辿り着くと、凪はハッと我に返った。足はつけているものの、波に押されて気付かぬ間に思ったより岸から離れていたことに気がつき、慌てて戻る。
 
 泳ぎに慣れた凪は危なげなく陸地に足を下ろした。
 濡れて重たくなった長い髪をかき分けながら何気なく顔を上げると、浜辺に建てられた詰所の前に、先ほどの彼がいた。

 何やら深刻そうな表情で同僚らしきライフセーバーの男性と話しているようだったが、凪は遠目から見てもわかる鍛え上げられた筋肉に再び目を奪われていた。
 
 彼が身につけているのはライフセーバー用のオレンジの競泳パンツだ。布面積が少ないからこそ、彼の凛々しい肉体が惜しげもなく晒されている――とそこまで考えて、凪は自分の変態的思考を省みて愕然とした。

(な、何考えてるの?!)

 見知らぬ男性の体をマジマジと見つめるなんて不審者にも程がある。なんなら先ほどのチャラ男と大差ないのでは?
 そんな自分にショックを受けて手で口元を覆っていると、あろうことか彼と目が合ってしまった。

 あ……と思ったのも束の間、先ほどの不埒な自分の思考に混乱した凪は、逃げるように慌ててその場から立ち去ったのだった。
< 8 / 20 >

この作品をシェア

pagetop