『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
ベーカリーでのアルバイトがある日は、パンを二つ持って見舞いに行くのが日課になった。
花屋敷の奥さんと分け合って食べるのだ。
今日店から貰ったパンはフォカッチャとスコーンだった。
奥さんはスコーンが大好きだと言った。
途中に立ち寄ったスーパーで買ったティーバッグで紅茶を入れてあげると、少女のような顔をして、「スコーンと紅茶は相思相愛よね」とウインクを投げてくれた。
女が立ち寄る日は必ず果物を用意してくれていた。
分けっこした分だけ女のパンが減るので気を遣っているのだ。
それに、少し元気が出て歩けるようになったので、病院の売店で買い物をするのは気分転換になると言って女を安心させた。
今日はバナナを用意してくれていた。
バナナは女の大好物だった。なのでそれを伝えると、「娘もバナナが大好きだったのよ」と微笑みを返してくれたが、それによって在りし日の姿を思い出してしまったようだった。
「まだあの日の朝のことを覚えているわ。『行ってきます』って、いつも通り元気に出かけていったのに……」
顔が歪んだ。
「ごめんなさい。もう泣かないと決めていたのに、ダメね……」
右手の人差し指で目の下を拭った。
そして当時のことを辛そうに話し始めたが、その内容は驚きを超えていた。
花屋敷の奥さんと分け合って食べるのだ。
今日店から貰ったパンはフォカッチャとスコーンだった。
奥さんはスコーンが大好きだと言った。
途中に立ち寄ったスーパーで買ったティーバッグで紅茶を入れてあげると、少女のような顔をして、「スコーンと紅茶は相思相愛よね」とウインクを投げてくれた。
女が立ち寄る日は必ず果物を用意してくれていた。
分けっこした分だけ女のパンが減るので気を遣っているのだ。
それに、少し元気が出て歩けるようになったので、病院の売店で買い物をするのは気分転換になると言って女を安心させた。
今日はバナナを用意してくれていた。
バナナは女の大好物だった。なのでそれを伝えると、「娘もバナナが大好きだったのよ」と微笑みを返してくれたが、それによって在りし日の姿を思い出してしまったようだった。
「まだあの日の朝のことを覚えているわ。『行ってきます』って、いつも通り元気に出かけていったのに……」
顔が歪んだ。
「ごめんなさい。もう泣かないと決めていたのに、ダメね……」
右手の人差し指で目の下を拭った。
そして当時のことを辛そうに話し始めたが、その内容は驚きを超えていた。