後姿のピアニスト ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 予約した日がやって来ました。
 予報通り快晴でした。
 思わずガッツポーズを作って気合を入れました。
 9時過ぎに母がだるそうな表情で起きてきましたが、昨日よりはかなりマシなように見えました。
 天気が影響しているのは間違いないようでした。
 母の好物のジャムトーストと目玉焼きを作って一緒に食べました。
 母は半分ほど残しましたが、それをわたしが平らげて、食後に紅茶を入れました。
 たっぷりのミルクと砂糖を入れて甘めにしてあげると、おいしそうにすすっていました。
 わたしはストレートで飲みながら母の様子を見ていました。
 笑みは出なかったものの仮面でもなかったので、大丈夫かなって思って話を切り出しました。
 
「ちょっと気になることがあって病院を予約しているんだけど付いてきてくれない?」
 すると母は、ん? というような表情になりましたが、反応はそれだけでした。
「一人だと心配だから付いてきて欲しいの」
 わたしは重ねて頼みました。
「そうね」
 母の返事はそれだけでしたが、「初めての病院だから心配なの」と懇願すると、母はテーブルに左肘をついて、左手の上に顔を乗せて、「何が気になるの?」とけだるそうに言いました。
「ちょっと……」と言うと、「そう」と言って眠そうな目でわたしの顔を撫でるように見ました。
「お願い」
 わたしは顔の前で両手を合わせました。
 すると、「いいけど」と言って右肘をついて右顎を右手の上に乗せました。
 それからもう一度「いいけど」と言って小さなあくびをしました。

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