『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
〈悩み〉や〈症状〉、〈それがいつ頃から始まったのか〉や〈最近の環境の変化〉などについて質問されました。
 わたしがそれに答えるにつれて母の表情が変わりました。
 わたしの横顔を信じられないといったような目で見ていました。
 自分とまったく同じ症状だと気づいたからだと思います。
「父が死んだことがまだ信じられません」
「切なくてたまりません」
「いつも疲れていて何もやる気が出ません」
「眠れない日が続いています」
「食欲はほとんどありません」
「なんにも興味がわきません」
 わたしが話す度に母の顔が曇りました。
 そして、「会いたくてたまりません」「寂しくて寂しくて死にたくなります」と言った時には両手で顔を覆いました。
「もっと優しくしてあげればよかった」と言った時には大粒の涙が零れ落ちました。
 それを見て、わたしも堪えられなくなりました。
 もう話せなくなりました。
 母と二人で涙を流しました。
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