『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 母が待合室に戻ってきて暫く待たされたあと、看護師がわたしを呼びに来ました。
 ドキドキしながら診察室に入ると、「お母さんはうつ病と思われます。ご主人を突然亡くされた喪失体験が引き金となって発症したのだと思います」と告げられました。そして、病気の概要や治療方針、日常生活での注意点を説明されました。
 うつ病とはエネルギーが枯渇した状態であり、ガソリンが切れた自動車のようなものなので、それをよくわかってあげることが重要だと言われました。
 抗うつ薬による治療が必要なことや、ゆっくり休むことが必要なので、「頑張れ」とか「元気を出して」などと励ましてはいけないとも言われました。
 治癒するまでに数か月から数年かかることもあるので、完治を焦らないこと、何よりもお母さんのあるがままを受け入れてあげること、と念を押されました。
 
 わたしはメモを取りながら一つ一つ頭に叩き込みました。
 そして、母を再び元気にしてあげたいと強く思いました。
 でも、長い戦いに備えなければいけないとも思いました。
 これからは生活費だけでなく治療費もかかるからです。
 貯金と生命保険を合わせた1,200万円ほどはすぐに無くなってしまうに違いないので、家計を助けるためにアルバイトをしなければいけないと思いました。
 それも、複数を掛け持ちする必要があると思いました。
 放課後にできるアルバイトと土日にできるアルバイトを探さなければならないと思いました。

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