後姿のピアニスト ♪ 新編集版 ♪
「お辛かったですね」と黙ってわたしたちを見ていた医師が優しく声をかけてくれました。
「私も妻を亡くした時は死にたいと思いました」と医師が声を詰まらせた時、患者はわたしから母に替わりました。
 母は泉が湧きだすように次から次と辛い心内(しんない)を吐露していったのです。
 涙を流しながら、鼻をすすりながら、肩と手を震わせながら吐露していきました。
 
「よくわかります。私も一緒でした。本当によくわかります」
 医師は涙を流しながら何度も何度も頷いていました。
 看護師も泣いていました。
 神経質そうに見えた彼女は温かい心の持ち主だったようです。
 
 母が心内をすべて吐き出した時、「念のために簡単な検査をしましょうね」と医師が母に語りかけました。
 頷く母を見て検査内容を看護師に指示しました。
 尿検査、血液検査、血圧、体重測定などの一般的な検査が行われました。
 その間、わたしは待合室で待っていました。

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