『後姿のピアニスト』 ~辛くて、切なくて、 でも、明日への希望に満ちていた~ 【新編集版】
 秋が深まり、枯葉が道路を埋め始めた頃、母の表情に変化が現れました。
 何か悩んでいるような、戸惑っているような、おどおどしているような、そんな感じが見受けられるようになりました。
 わたしは一気に不安になりました。
 うつ病が悪化しているのかもしれないと思ったのです。
 うつ病は季節によっても影響を受けることがあると読んだことが蘇ってきました。
 冬場にだけ発症する場合もあるらしいし、秋から冬にかけて悪化する場合もあるらしいのです。
 病気ではない人でも日照時間が短くなる冬場は気分が落ち込みますから、病気の人は敏感に反応するのかもしれないと思いました。
 
 心配になったので、すぐに受診するよう勧めたのですが、「大丈夫だから、心配いらないから」と言って相手にしてもらえませんでした。
 大丈夫じゃないから言っているのに、と思いましたが、首に縄を付けてクリニックに連れて行くわけにもいかず、気になりながらもそれ以上強く言うことはできませんでした。
 それでも、母の観察だけは怠らないように気をつけていました。
 急変した場合、自殺する危険性があるからです。
 うつ病というのは恐ろしい病気なのだということを改めて自らに言い聞かせました。
 
 それ以降、十分気をつけながら母を見ていましたが、冬の気配が強くなった頃、病気とはまったく関係ない酷い仕打ちが襲ってきました。

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